手の届かないものを手の届くところに

高校や大学初年で勉強した解析学では、「無限」を到達できないけどそちらに向かっていくらでも大きな数を用意できるものとして扱いました。実際には扱ったわけではなくて、扱わないけどそういう概念があるのを利用したということです。

「無限」に魅入られた天才数学者たち

「無限」に魅入られた天才数学者たち

再読。
カントール集合論を打ち立てて精密化していく段階で、実体としての無限という概念を取り扱います。そして、それらに数学的な解釈を与えていく段階で精神の均衡を失っていきます。この本は、カントールの精神を蝕み、それに飽き足らずゲーデルの精神すら食いむさぼった「連続体仮説」に関する概略を解説した本です。訳者は「フェルマーの最終定理」と同じく青木薫氏。
カントールは精神医学が未発達の時代に死んでいますので、その精神の失調の原因を連続体仮説だけに求めるのはやや乱暴です。が、筆者は異論もあることを認めた上で、カントールゲーデルがたどった過程が気味の悪いほど似ていることを指摘します。
ワイルズがつかみとった栄光は数学の光といえるものでしたが、もちろん数学者のすべてが栄光の中に生涯を閉じるわけではありません。ハーディーにその異形の才能を見出されたばかりに英国に招聘されて早死にしたラマヌジャンのような人もいれば、グロタンディークのようにピレネーの山中に失踪してしまった人もいます。
カントールゲーデルも偉大な業績を上げながら、最後には精神を病んで死んでしまいます。筆者は「無限の明るさは人間が見つめ続けるにはあまりにも明るすぎる」と言うカバラ秘術の話を例えとしてひきながら、この二人のたどった道、そして結果的に連続体仮説がどうなったかを淡々と説明していきます。
話は文句なしに面白いです。小説としても通じるような読ませる文章、なにより劇的な素材ということで一冊楽しんで読めました。また、実無限という概念の登場、その背景なども丁寧に解説されています。
残念だったのは、重要な話である連続体仮説の解説が少々淡白に終わってしまっていることです。たとえば選択公理の話は、他の話の説明に比べてもあっさりしすぎている気がします。やはり一般読者には敷居の高い話ですので、難しい話ほど間で含むように何度も説明して欲しいものです。
お勧め。