本の書き込みが証明されるまで

「直角三角形の二辺の二乗の和は、斜辺の二乗に等しい」というピタゴラスの定理は、誰でも知っています。中学校で習いました。そして、ある種の直角三角形では、三辺の比が自然数比になります。つまり、以下の式を満たす自然数x,y,zが存在します。

x^2+y^2=z^2

一番有名なのは、3,4,5の三つの数です。
では、2より大きなすべての自然数nについて、この式が成り立つ自然数x,y,zは存在するでしょうか。

x^n+y^n=z^n

350年前、フェルマーはこのような自然数は存在しないと言い切った上で、本の余白に「私は真に驚くべき証明を見つけたが、それを書くには余白が狭すぎる」という数学史に残る一言を記します。

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

本書は、フェルマーの定理に対する数学者の挑戦を歴史を追って説明しつつ、最後にこれを証明したワイルズのアプローチをわかりやすく説明したものです。
説明は平易ですが、数学の基本となる考え方を丁寧に説明しています。そのため、読み進めるにつれて前のほうで説明されたことが理解の役に立っていきます。
読み物としても一級品です。特に今世紀に入ってから、すべてのnに総当りで挑戦する方法が行き詰まりを見せた後の静寂、そして日本人数学者が提唱した「谷山・志村予想」が突然フェルマーの最終定理と結びつく劇的な瞬間の記述などは、特上の小説を読んでいるようです。
数学に詳しくない人でも楽しめる上、知識欲も満たしてくれる一冊です。

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