減速材として軽水や重水を使う場合、減速材をそのまま冷却水として使うことができます。軽水減速軽水冷却炉(軽水炉)、重水減速重水冷却炉(重水炉)です。重水炉は天然のウラニウムを濃縮せずに使うことができます。濃縮過程をすっとばすことで核拡散について超大国に勝手なことをぐだぐだ言われずに済むのが利点です。カナダはウラニウム産出国でもあるため、重水炉によって政治的にも技術的にも閉じた原子力政策を推し進めています。
さて、軽水炉、重水炉いずれにも重要な点として、ボイドの存在があります。加圧水型原子炉の場合、高温を維持するために炉心の冷却水に高い圧力を掛けています。しかし、計画より温度が高くなると水が気化を始め、炉心に泡が生じます。これがボイドです。
ボイドが発生し始めると、単位体積中の減速材の量が減ります。言葉を変えるとボイド内では中性子が減速されません。そのため、ボイドの発生は炉を停止させる方向に作用します。つまり、
- 炉の反応が活発になる
- 炉の温度が上がる
- ボイドが発生する
- 炉の反応が下火になる
- 炉の温度が下がる
- ボイドの量が減る
という、負の帰還がかかっています。これは軽水炉、重水炉に特徴的な強い安定性のひとつです。黒鉛減速炉の冷却材として軽水を使う場合、ボイドの発生はこれとは逆の効果をもたらすことに気をつけてください。黒鉛減速炉の中の軽水は、減速よりも中性子吸収が強く働いています。そのため、ボイドが発生するとボイド内部では中性子吸収が下火になるため、核反応が活発化します。つまり、黒鉛減速軽水冷却炉では
- 炉の反応が活発になる
- 炉の温度が上がる
- ボイドが発生する
- 炉の反応がさら活発になる
- 炉の温度がさらに上がる
- さらにボイドが発生する
という、正のフィードバックが起き得ます。出力が高い領域では別の効果*1によってこの正のフィードバックの効果は帳消しになりますが、低出力領域では黒鉛減速軽水冷却炉には本質的不安定さが存在します。
チェルノブイリ原発は黒鉛減速軽水冷却炉でした。日本の商用原子炉は軽水減速軽水冷却炉です。