減速せよ

核分裂の連鎖反応とは、分裂した原子核から中性子が飛び出して、それが他の原子核の分裂を誘発し…という反応が次々に起こることです。ところが、分裂時に飛び出した中性子が高速すぎて、反応を続けるのが難しいと言う話でした。反応を続けるには次の手段があります。

  • 核燃料である235Uの体積あたりの濃度を上げる
  • 中性子の速度をそぐ

日本型軽水炉では上の二つの組み合わせを使いますが、もっぱらその重きは2番目にあります。つまり、中性子の減速こそが軽水炉の運転の鍵です。中性子の減速に使う物質を減速材と呼びます。減速材には

  1. 中性子を効率よく減速し
  2. 中性子を吸収しにくい

ものが望まれます。1の能力が大きければ大きいほど、コンパクトな原子炉が可能になります。大振りの原子炉は圧力容器を作るのが難しくなり、歓迎されません。2の能力が劣ると、原子炉内部の反応を維持し続けるのが困難になります。
原子炉の減速材には一般に次の3種類のいずれかが使われます。

軽水
いわゆる真水。空から降ってくる雨や川を流れている水そのものです。純度を上げ、適切な物質をわずかに溶解させて使います。軽水は減速能が高く、コンパクトな原子炉を作ることが可能です。ただし、中性子を吸収する性質が他の二つより大きいため、天然ウラニウムを燃料とする原子炉を作ることができません。天然ウラニウム中の235U*1を濃縮して3%程度まで高める必要があります。これが濃縮ウラニウムです。ウラニウムの濃縮は大型の設備が必要になるうえ、軍事転用の可能性が政治的に問題化することが多いため、これらが問題になる国では軽水減速炉を敬遠することがあります。
黒鉛
炭素のブロック。いわゆる炭だと思ってください。炭は減速能が低く、コンパクトな原子炉を作ることができません。ところが、中性子をほとんど吸収しないため、天然ウラニウムのまま核反応を起こすことができます。
重水
水分子の中の水素のひとつが重水素と置き換わったもの。重水は天然にわずかに存在します。化学的性質は軽水とかわりませんが、沸点や融点、物質の溶解度、比重など物理性質が軽水とわずかに異なり、これを利用して海水から重水を精製することができます。重水は中性子減速能が軽水よりやや劣りますが、中性子をほとんど吸収しないため、やはり天然ウラニウムを燃料とした炉を作ることができます。重水は少量なら摂取しても問題ありませんが、大量に飲むと死にいたります。

重水や軽水を減速材として使う場合には、それをそのまま還流させてエネルギーの取り出し(冷却材)に使うのが一般的です。しかし、黒鉛減速炉の場合には冷却材を別に使う必要があります。
世界初の人工原子*2は、シカゴ大のCP-1ですが、これは黒鉛減速炉でした。実験を目的としており、冷却材はありません。

*1:約0.7%

*2:遠い過去、地球には天然原子炉があった。現在は235Uが減ったため天然原子炉が生じることはない