剛速球は捕れない

小学生のときに読んだ科学の本には、「中性子が235U原子核*1に衝突すると、核分裂が起きる」という説明がありました。これを読んで、私の頭に浮かんだのは、中性子がぶつかった衝撃で原子核が分裂すると言うイメージです。
間違いでした。
235U原子核中性子を吸収して分裂するのは、その運動量が原因ではありません。中性子を吸収することで原子核そのものが不安定になるためです。中性子のエネルギーは問題になりません。たとえて言えば、食べ過ぎた食いしん坊が、よせばいいのにお団子をひとつ余計に食べてしまって戻してしまうイメージです。お団子の温度は問題じゃありません。
そういうわけで、中性子が235U原子核に吸収されると核分裂が起きるわけですが、では、吸収される条件は何か。それは中性子の速度(エネルギー)です。おんなじじゃん!?違います。違うのです。
たとえ話をして見ましょう。
剛速球が持ち味の期待のルーキー。べらぼうに速い球を投げるけど、玉が暴れる暴れる。さて、キャッチャーは逃さず捕球できるでしょうか。
わかりきったことですが、同じ暴れ具合なら、スピードが速いほど構えたミットの近所しか捕れません。仮にそのピッチャーが500km/hの球を投げるとすれば、キャッチャーは構えたミットの位置の球しか捕球できないでしょう*2。300km/hくらいまで落ちてくると、ボールひとつくらい外れても捕球できるかもしれません。150km/hくらいならかなりずれても捕れます。100km/hくらいなら捕球できる範囲は飛躍的に広がるでしょう。
原子核中性子を吸収する場合にも同じようなことがおきます。高速中性子の場合、原子核に直撃、あるいはごく近傍を通過しない限り吸収されません。ところが、中性子の速度が落ちてくると、原子核からものすごく遠いところを通過しても吸収されうるのです。
原子核中性子を吸収する能力は、原子核の仮想的な断面積、「吸収断面積」としてあらわすことができます。中性子のエネルギーが小さいと、235Uの吸収断面積は飛躍的に大きくなります。

*1:ウラニウム235の原子核

*2:いや、まぁ、病院送りとかは今回は無し