ヒーローを拒絶する

町の本屋に寄ったら、藤田和日郎の新作が平積みされていました。

邪眼は月輪に飛ぶ (ビッグコミックス)

邪眼は月輪に飛ぶ (ビッグコミックス)

藤田和日郎といえば、90年代に少年サンデーに連載した「うしおととら」で認められ、雷句誠(金色のガッシュ)や井上和郎あいこら)といった癖のある漫画家を育てたことでも知られる漫画家です。
まぁ、ファンなんですけど。
今回の作品は彼が青年向け雑誌に短期連載した漫画です。期待に胸膨らませながらレジに直行。電車の中から読み始めて家についてすぐ読み終えました。相変わらず読ませます。
藤田和日郎の作品は、少年漫画ではぎりぎりアウトと思われる残虐表現と、筆者内面の優しさがにじみ出るアンバランスさがひとつの面白さになっていますが、この作品もその例外ではありません。第一話の見開きページでいきなり人々が血を吐きながら死にます。航空母艦の乗組員は全滅し、東京の繁華街は通り丸々が死人で埋まり、日本全国で人々がばたばたと死にます。第一話の前半だけで死者400万人以上。作者はここまでお膳立てをした上で、連載の残りを彼らしい人間のストーリーとしてつづります。無敵の魔物を如何にして倒すかじゃなくて、登場人物達を描くのがこの漫画の主題です。
何の因果か見る者すべてを死に至らしめる邪眼を持ってしまった一羽のふくろう。そのたった一羽にてこずる米国と日本。窮した米軍が接近したのがただ一人、かつてそのふくろうを撃ち落したことのある年老いた猟師。この一羽と一人を中心に、話は進みます。基本的に藤田作品には「逆転、また逆転」とか「あっと驚く意外な展開」はありません*1。登場人物の気持ちを、一枚一枚皮をはぐように丁寧に書くのが藤田作品。この作品もその基本に従って、猟師の、さらにはふくろうの哀れなほど弱々しい姿が浮き彫りにされています。
寄生獣」の田村玲子風にいえば、「か弱いが無敵」である一人と一羽。そして彼らを取り巻く人々の心のひだ。完全無欠のヒーローを拒絶する藤田和日郎による、プロの仕事といえるストーリーを堪能させてもらいました。

*1:例外は「からくりサーカス」に登場したフランシーヌ人形の話の結末