新書は久しぶり

系統樹、という考え方を中心に生物学を語った本

系統樹思考の世界 (講談社現代新書)

系統樹思考の世界 (講談社現代新書)

はてなのどなたかの紹介をみて興味を持っていたのですが、meinekoさんが取り上げるに及んで購入決定。先週買いました。通勤時間にちょいちょい読んで読了。
一言で言うと難しい本でした。
他の方にはおおむね好評のようですが、どうも散漫な感じがして「系統樹思考」というモノが何をもたらすのか、岩のようにしっかりした理解を得られませんでした。書き出しから理解するに、一般向け解説と言うより研究者が自分の研究を振り返ったものと考えたほうがいいかもしれません。理解させる努力より著者の楽しさで書かれているような気もします。電車で読む本ではないかも。
ただし、ところどころ「おっ」と感じるところがあり、そこからいろいろと考えが広がったり、まとまったりといった事があったのは収穫でした。
たとえば現在の生物を動物進化の系統樹にマップすると、すべてが「葉」の位置に収まるという話などは、思わず電車の中でうなずいてしまいました。よく進化論の本で説明される「xx生物がxx生物に進化し、やがてxx動物になってxx類が…」といった話でいつも違和感を感じていたのはその進化が数億年前に終わったものだということです。
「昔は原核生物だけだった」
「やがて真核生物が現れた」
とう話は、原核生物から真核生物が分かれたということを説明しています。しかし、原核生物、真核生物は現在の生物の分類です。分岐後、両者とも進化を続けて現在に至っているわけでありその意味で「原始的」と思われている生物も進化の先端、つまり系統樹の「葉」にいます。
生物進化の系統樹は過去から未来に向かって成長を続けており、我々が見ているのは2006年8月時点での姿に過ぎません。振り返ってみると、そのことはどの本であっても系統樹のイラストにきちんとあらわされていたようです。ところが、はっきりと文章で語ってくれた本はなかったように思います。専門家が考える常識と一般読者が考える常識の乖離の例と言うといいすぎでしょうか。
また、ほとんどない過去のデータと豊富な現在のデータから系統樹を類推する話は面白かったです。一応広く使われている方法はあるとのことですが、読んだ感想は「たんぱく質進化の速度以外で作る系統樹は当てになりそうもないなぁ」というものです。所詮誰も見たことのないものを作ろうというのですから、精密さを過剰に期待してはいけないのかもしれません。恐竜と鳥の分岐の仮説なんて、数年毎に変わっているように思えます。
それから、「生物進化論的には系統樹のほうがよいのだが、一般的な感覚としては系統樹より単純な分類のほうが直感的ではないか」と言う話もなるほど、と感じました。ところがなぜそう感じたかと言うと説明しにくいのです。この納得できるけれど説明しにくい仮説は、読後も気持ち悪く残っています。
マイアーのダーウィン進化論の現在 (Questions of science)には「種の進化的な定義は、一般には受け入れられなかった*1」とあります。ところが今回読んだ本によれば系統樹思考は生物の分類に対して非常に大きな力を持っているようです。マイアーの本が書かれてからすでに15年が経過しており、その間に種の概念が変わったのかもしれません。
個人的にはこの辺が理解できないまま終わったのが残念です。おそらくは私にはレベルの高すぎる本だったか、あるいは私の理解力が低すぎるのでしょう。最近の衰えを考えるに、どうやら後者らしいとは思っています。
かといってもう一度読むのもなぁ。

*1:p47

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