地上(+100Km)の星

国立天文台理研と共同で夜空に星を映す方法を開発しました。そう聞くとプラネタリウムのようでもありますが、この星は肉眼では見えないほど暗い星です。ではどうするのか、すばる望遠鏡で覗くのです。
私が子供のときに読んだ図鑑には、「大望遠鏡も空気の揺らぎのために像がぼけるので、地上では30cm望遠鏡と同じ程度にしか見えません」と書いてありました。ここで「見えない」というのは語弊があります。もちろん大望遠鏡では明るく見えます。しかし、問題は解像度が上がらないということです。
望遠鏡は、大きく明るく見えるだけではなく、大きくした像がくっきりと見えないと意味がありません。そりゃそうです。ぼけぼけでは研究にはなりません。理論的には望遠鏡の直径を大きくすればくっきり見える*1のですが、天体写真は露光に時間がかかるため、空気の揺らぎのせいでぼけてしまうのです。暑い日にかげろうが立って景色がゆらゆらと動いているのを見たことがありませんか?あれのごくわずかなものでも望遠鏡には悪影響を与えるのです。
以前は、これを解決するには空気の薄いところにいくしかありませんでした。ですから今世紀の大望遠鏡は全部山頂に作られています。ハワイのマウナケア山頂に世界の大望遠鏡が結集しているのもそれが理由です。
そして空気の薄いところを求めるという考えを極限まで推し進めたのが宇宙望遠鏡です。NASAは史上初めて大望遠鏡を宇宙に送り出し、天文学に長足の進歩をもたらしました。ハッブル宇宙望遠鏡です。しかし宇宙に送り出す望遠鏡の大きさには限度があります。
日本が作り上げたすばる望遠鏡はこの問題を別角度から解決しました。すばるの8m主鏡は開発当時世界最大です。しかしこのような巨大な望遠鏡が作られなかった理由のひとつに、先の解像度問題があります。
かつての大望遠鏡は集めた光をそのまま焼き付けていました。しかし、すばるは集めた光をイメージセンサーに導く前に、「補償光学系」と呼ばれる装置に通します。この装置は見たい天体の近所にある比較的明るい星に注目します。さらに、その星がどれだけゆれているかを測定し、大気の揺らぎを逆算します。そして計算された揺らぎを打ち消すような揺らぎを鏡に与えることによって、星の光の揺らぎを止めるのです。誤解を恐れずに言えば、大望遠鏡につける「手ぶれ補正装置」です。
この補償光学系、すばらしい装置なのですが欠点があります。見たい星の近所に比較的明るい星が必要なのです。明るいといっても私の望遠鏡では見えないくらい暗いのでたくさんあるのですが、大望遠鏡は視野が狭いため、視界に明るい星があるかどうかはばくちなのです。国立天文台の発表ではそんな星が視界にある確率は2%! まるで、やたら縛りのきつい最強呪文のようです。
今回開発されたシステムはこの制限を取り払ってすばるの力を100%発揮させるためのものです。啼かぬなら、啼かせてみようホトトギス。星がないなら作ってしまえという装置です。理屈は比較的簡単で、すばる望遠鏡に取り付けた小望遠鏡から空に向けて強力なレーザーを発射します。このレーザーは高度100Km付近でナトリウム原子を励起して発光させます。直径50cm、長さ5Km程度の円筒状の発光は、すばる望遠鏡からは点に見えます。人工の星ですね。この星は空気の揺らぎによって位置を変えますから、補償光学系にかけることで空気の揺らぎを逆算できるのです。
装置には大出力の光周波数変換器なども含まれており、なかなか興味深いです。一方、突発的な天体現象がおきるとみんながその星を覗くため、他の天文台の邪魔になることも考えられます。そんな場合どうすればいいか、考えてみるのも面白い装置です。
実稼動が楽しみです。

*1:おっちゃんたちが大枚はたいて大きなレンズや望遠鏡を買うのはこれが理由

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